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密閉教室考・補遺 (本考はこちら

 「密閉教室考」を書いた後に新たに判明した事実(情報)があり、それについての経過と考えを以下に記す。

 寮に関することだが、前考では「県立(公立)高校には寮がない」という推論の上で話が進められた。しかし、そうではないという証言がいくつか上がった。
 島根県出身者である友人T嬢によると、県立(公立)高校でも寮のあるところは実在する、現に彼女の行っていた高校(これは、法月氏の母校ではない)には寮があったというのだ。彼女の出身校には普通科でない特別な学科があり、そちらに通う学生のために寮があったという。
 次に、法月氏の母校である(と推察される・確認したわけではないのであしからず)松江北高校出身だと名乗る蝉丸さんの証言。蝉丸さんは、当サイトの掲示板に書き込みを下さり、その中で『密閉教室』を読むと自分の出身校と作中の湖山北高校との類似点に気がついたという。蝉丸さんは新聞部にも在籍したことがあり、新聞部からの眺めや教室の描写が松江北高校に類似しているそうだ。作中登場する飛雲館に該当する建物もあるという。 そしてさらに、松江北高校には男子寮、女子寮ともにあるのだそうだ。(詳しくは本サイト「質疑応答」の過去ログを参照のこと。2001年3月5日前後に記述がある。)
 もちろん以上はあくまで人から聞いた話で、本来なら直接確認をしなければならないところだが、私が調べた限りでは確証がもてるような事実には出会えなかった。ネット上は表面上隠されているものたちの交流の場であるから、この蝉丸さんがたしかなことを言っているという確信は残念ながら私には持つことができない。
 ただ、事実にせよ、そうでないにせよ、そういう可能性があるということは事実だから、これは甘んじて受け止めなければならない。
 つまり、前考において「県立(公立)高校には寮がない」としたのは事実ではない可能性を考慮する必要が生じてきたのだ。

 では、寮があると仮定するとどうなるか。コーダの手紙中に寮についての記述がある以上、これが高校の寮でないと言い切ることは現時点ではできない。

二月二十七日に寮を出たのですが、掃除が残っていたために、三月十二日(月)に帰寮したところ、丁度手紙が届きました。

 この文面からわかることは、コーダの手紙の差出人Aは寮に入っていた。これが高校の寮だとすると、どうなるか。
 実は前考での考えと、あまり変わりがない。コーダの手紙の受取人Bが出したと推測される最初の手紙が、実は事件のすぐあとに描かれて、Aに送られたものだということになる。
 するとちょっとおかしな事実が出てくる。Bが出した最初の手紙は、前考でも述べたように、作中の人物(工藤と吉沢)を自分たち(BとA)に投影したものであるけれども、作中では吉沢は夜中に中町に電話をかけつづけているのだ。A=吉沢が寮に入っていたと考えるなら、吉沢は寮の中で、ずっと電話をかけつづけていたことになる。
 さて、これも推測でしかないけれど、通常高校にあるという寮に個人用の電話線がちゃんとひかれているものだろうか。しかもこれは公立高校である。普通に考えるなら、寮の中の公共の場所に共同の電話機があるのではないだろうか。
 そんな公の場所から吉沢が長電話をかけつづけていたとは、ちょっと考えにくい。
 Aが吉沢とまったくは一致しないとする。Aは実際には寮に入っていたが、作中の人物吉沢は寮には入っていなかった。しかしそう考えると、Aと吉沢を同一視することは少しきびしくなるのではないだろうか。
 もちろん、この可能性がないとは言い切れない。だからこそ、「わけがわかりません」となったのかもしれない。

 この問題はさておくとして、コーダには次のような文章もある。

ただ私は貴方のことを同窓生の一人としか考えていません。

 これはyou-氏が指摘したことだが、ここで「同窓生」であると明記している以上、このコーダが描かれた時点でAとBは既に卒業していると言い切れるのではないだろうか。卒業している、つまり既に高校生ではない、つまりこの手紙は卒業したのちに違う寮に入り、そののちに書かれたものであると。
 ただし、これは日付的に微妙かもしれない。2月末の時点ですでに卒業式が終わってるとすれば、差出人Aが自分たちはもう高校生ではないと考えて「同窓生」と記すかもしれないし、在学中からそう表現する可能性がないとも言い切れない。

 ところが、曜日の記述を重視するなら、手紙の書かれた年代は1984年である可能性が高い。すると、この話が作者をある程度投影したものであるなら、主人公工藤の年齢も作者と同一であると考えて差し支えないはずで、手紙の書かれた年代1984年にB(工藤、あるいは作者)は20才であると考えられる。ここから「寮」についても高校の寮とは考えにくいと言える。

 以上のことから、寮が高校の寮か、あるいはそれ以外の寮かは、断言することはできないが、電話の件、「同窓生」という記述、そして曜日の記述を総合すると、高校以外の寮であるとするほうが妥当かと思う。
 とはいえ、たとえ高校の寮だとしても、「わけがわかりませんでした」と書かれていることにより、小説部分がまったくの事実とは言えず、小説という虚構の形を通してBがAに思いのたけを打ち明けたが、AにとってはBに対する思いはBが抱いているものとは違っていた、と読めることには変わりがない。
 結局は、前考において私が推測した結論とは、変わるところはないと言えるのではないだろうか。

(2001.03.20記)

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